ポケモンの技名には、日本語と英語の発想の違いがよく表れている。
今回取り上げるのは、「おうむがえし」である。
日本語名だけを見ると、「相手の言ったことをそのまま繰り返す」という意味の おうむ返しが思い浮かぶ。
ところが、英語名は Mirror Move である。
日本語では「おうむ」のイメージを使い、英語では「鏡」のイメージを使っている。
ここがかなり面白い。
「おうむ返し」とは何か
まず、日本語の「おうむ返し」について考えてみる。
「おうむ返し」とは、相手の言ったことをそのまま繰り返すことを表す。
おうむは、人間の言葉をまねる鳥として知られている。 そのイメージから、相手の言葉を自分の考えなしにそのまま返すことを 「おうむ返し」と言うわけである。
つまり、日本語の「おうむがえし」は、 相手の行動をそのまままねる という点に注目した名前だと考えられる。
まねる存在としての「おうむ」が、技名の中心に置かれているわけである。
英語名は Mirror Move
一方、英語名は Mirror Move である。
mirror は「鏡」、 move はここでは「技」や「動き」に近い。
直訳すれば、「鏡の技」「鏡の動き」のような感じになる。
英語名では、おうむという鳥のイメージは出てこない。
その代わりに、 相手の動きを鏡のように映し返す というイメージで表現されている。
日本語名は「まねる存在」に注目し、英語名は「映し返す仕組み」に注目している。
同じ技を指しているのに、見ているポイントが少し違うのである。
日本語は「誰がまねるか」、英語は「どう返すか」
日本語の「おうむがえし」は、かなり具体的である。
「おうむ」という動物を出すことで、 まねる存在を前面に出している。
一方で、英語の Mirror Move は、 「誰がまねるか」よりも、「どう返すか」に注目している。
鏡に映したように、相手の動きをそのまま返す。
こちらは、まねる存在よりも、反射や再現の仕組みに目を向けた表現である。
ここに、日本語と英語の名づけ方の違いが見える。
- 日本語:おうむのようにまねる
- 英語:鏡のように映し返す
どちらも「相手の技を返す」という点では同じである。 しかし、そこにたどり着くためのイメージが違う。
なぜ Parrot Move ではないのか
日本語名をそのまま英語にするなら、 Parrot Move のような名前も考えられそうである。
parrot は「オウム」を表す英単語である。
さらに英語では、parrot を動詞として使い、 「人の言葉をそのまま繰り返す」という意味を表すこともある。
つまり、「おうむ返し」に近い発想が英語にまったくないわけではない。
それでも、技名としては Parrot Move ではなく Mirror Move が選ばれている。
おそらくその理由は、ポケモンの技として見たときに、 「鳥がまねする」というよりも、 相手の技を映し返す という動きのほうが伝わりやすいからだと思う。
とくに技名としては、短く、直感的で、動きが見えることが大切になる。
その意味で、Mirror Move はかなりうまい名前である。
ミラーコートとはどう違うのか
ここで気になるのが、ポケモンには ミラーコート という技もあることだ。
日本語では「ミラーコート」、英語では Mirror Coat である。
こちらも mirror が使われている。
では、Mirror Move と Mirror Coat は 紛らわしくないのだろうか。
英語で見ると、両方に mirror が入っている。 しかし、後ろの語が違う。
- Mirror Move:相手の「動き・技」を映し返す
- Mirror Coat:鏡のような「コート・膜」で返す
move は動きや技に注目した言葉である。
一方、coat は「覆うもの」「膜」のようなイメージを持つ。
つまり、同じ mirror でも、 何と組み合わさるかによって見え方が変わる。
Mirror Move は、相手の技そのものを映し返す感じ。
Mirror Coat は、鏡のような膜で受けて返す感じ。
同じ「ミラー」でも、表しているものは少し違うのである。
技名の翻訳は、直訳ではなく発想の置き換え
ポケモンの技名を見ていると、日本語をそのまま英語にしたものばかりではない。
むしろ、英語圏のプレイヤーにとって自然に伝わるように、 発想を少し変えているものが多い。
「おうむがえし」もその一つである。
日本語では、「おうむ」という具体的な鳥のイメージを使う。
英語では、「鏡」という、映し返す仕組みを使う。
どちらも、相手の行動をそのまま返すという点では共通している。
しかし、そこに至るためのイメージが違う。
翻訳とは、単語をそのまま置き換えることではなく、伝わるイメージを選び直すことでもある。
ここが、ゲーム翻訳のおもしろいところである。
英語学習として見ると
この技名から学べるのは、単に mirror = 鏡 という単語だけではない。
mirror は、名詞として「鏡」を表すだけでなく、 「映し出す」「反映する」という発想にもつながる。
日本語でも「社会を映す鏡」という言い方がある。
英語でも、mirror にはそれに近い感覚がある。
だから Mirror Move は、 「鏡の技」と直訳するよりも、 相手の動きを映し返す技 と考えたほうがわかりやすい。
単語の意味を一対一で覚えるだけでは、こういう感覚はなかなか見えない。
技名や商品名のような短い表現ほど、 その言葉が何をイメージさせるのかを見る必要がある。
まとめ
「おうむがえし」の英語名は Mirror Move である。
日本語名は「おうむ」のイメージから、 相手の行動をそのまままねることを表している。
一方、英語名は「鏡」のイメージから、 相手の動きを映し返すことを表している。
同じ技でも、日本語と英語では注目するポイントが違う。
日本語は「まねる存在」に注目し、英語は「映し返す仕組み」に注目する。
そこに、翻訳のおもしろさがある。
ポケモンの技名は、単なるゲーム用語ではない。 英語と日本語の発想の違いを考える入口にもなるのである。