塾長ノート

乗法公式を2つの方法で証明する

式と図形で同じことを見る

数学を勉強していると、 乗法公式 が出てきます。

たとえば、次のような公式です。

乗法公式の例

\[ (a+b)^2 = a^2 + 2ab + b^2 \] \[ (a+b)(a-b) = a^2 - b^2 \]

これらは、中学数学でも高校数学でもかなり大事です。

ただ、最初に習うときには、 「とりあえず覚えなさい」 という感じになりやすいところでもあります。

もちろん、乗法公式は覚えたほうがいいです。

何度も使うので、毎回ていねいに展開していたら時間がかかります。

ただし、暗記だけで終わってしまうと、 公式の見え方が少し浅くなります。

乗法公式は、突然どこかから降ってきたものではありません。

もとをたどれば、 分配法則 から出てきます。

そして、図形で見れば、 長方形の面積を分けて考えているだけ でもあります。

今回は、 乗法公式の基本形である \((a+b)(c+d)\) を、2つの方法で見ていきます。

  • 分配法則を使った代数的な証明
  • 長方形の面積を使った図形的な説明

難しい話ではありません。

むしろ、 「ああ、同じことを別の見方で見ているだけなんだ」 と思えれば十分です。

まずは基本形を確認する

今回扱うのは、次の式です。

今回見る式

\[ (a+b)(c+d) \]

この式を展開すると、次のようになります。

展開結果

\[ (a+b)(c+d)=ac+ad+bc+bd \]

これが、乗法公式のかなり基本的な形です。

ここから、 \((a+b)^2\) や \((a+b)(a-b)\) などの公式につながっていきます。

たとえば、 \(c=a\)、\(d=b\) とすれば、

\[ (a+b)(a+b)=(a+b)^2 \]

になります。

だから、 \((a+b)(c+d)\) は、乗法公式を考えるうえでかなりよい出発点です。

方法1:分配法則で証明する

まずは、代数的に証明してみます。

使うのは、分配法則です。

分配法則

\[ x(y+z)=xy+xz \]

これを使えば、 \((a+b)(c+d)\) も展開できます。

ただ、いきなり \(a\)、\(b\)、\(c\)、\(d\) がたくさん出てくると、少し見にくいです。

そこで、片方のかっこを一度、大きな文字で置いてみます。

置き換え

\[ A=a+b \]

すると、 \((a+b)(c+d)\) は、いったん次のように見えます。

\[ (a+b)(c+d)=A(c+d) \]

ここで、分配法則を使います。

\[ A(c+d)=Ac+Ad \]

ここまでは、普通の分配法則です。

次に、 \(A\) をもとの \(a+b\) に戻します。

\[ Ac+Ad=(a+b)c+(a+b)d \]

ここでもう一度、分配法則を使います。

\[ (a+b)c=ac+bc \] \[ (a+b)d=ad+bd \]

したがって、

\[ (a+b)c+(a+b)d = ac+bc+ad+bd \]

順番を少し並べ替えると、

\[ ac+bc+ad+bd = ac+ad+bc+bd \]

つまり、

証明結果

\[ (a+b)(c+d)=ac+ad+bc+bd \]

これで証明できました。

「置き換える」と見通しがよくなる

今の証明で大事なのは、 途中で \(A=a+b\) と置いたことです。

もちろん、置き換えなくても展開はできます。

しかし、いったん \(a+b\) を \(A\) と見ることで、 式がかなり単純になります。

\[ (a+b)(c+d) \quad \longrightarrow \quad A(c+d) \]

こうすると、 「かっことかっこの積」 ではなく、 「ひとつの文字とかっこの積」 に見えます。

つまり、いつもの分配法則として処理できるわけです。

数学では、このように 複雑なものを一度ひとまとまりとして見る ことがよくあります。

これは、中学数学だけでなく、高校数学でもかなり大事です。

「置き換える」という操作は、 ただ計算を楽にするためだけのものではありません。

複雑な式の構造を見やすくするための考え方でもあります。

方法2:長方形の面積で説明する

次に、図形で考えてみます。

\((a+b)(c+d)\) は、面積として見ることができます。

たとえば、たての長さが \(a+b\) 、横の長さが \(c+d\) の長方形を考えます。

長方形全体の面積

\[ \text{面積}=(a+b)(c+d) \]

この長方形を、たて方向に \(a\) と \(b\) に分けます。

さらに、横方向に \(c\) と \(d\) に分けます。

すると、長方形は4つの小さな長方形に分かれます。

(a+b)(c+d) を4つの長方形に分けた図 たてを a と b、横を c と d に分けた長方形。4つの部分の面積は ac, ad, bc, bd になる。 ac ad bc bd c d a b 横:c + d たて:a + b
たてを \(a\) と \(b\)、横を \(c\) と \(d\) に分けると、面積は \(ac+ad+bc+bd\) に分かれる。
  • たて \(a\)、横 \(c\) の長方形
  • たて \(a\)、横 \(d\) の長方形
  • たて \(b\)、横 \(c\) の長方形
  • たて \(b\)、横 \(d\) の長方形

それぞれの面積は、次のようになります。

4つの面積

\[ ac,\quad ad,\quad bc,\quad bd \]

全体の長方形の面積は、 この4つの面積を足したものです。

\[ \text{全体の面積}=ac+ad+bc+bd \]

一方で、全体の長方形は、 たて \(a+b\) 、横 \(c+d\) なので、面積は \((a+b)(c+d)\) です。

つまり、同じ長方形の面積を、 2通りの方法で表していることになります。

同じ面積を2通りに表す

\[ (a+b)(c+d)=ac+ad+bc+bd \]

これが、図形による説明です。

図形で見ると、項の意味が見える

代数的な証明だけを見ると、 \(ac+ad+bc+bd\) は、計算の結果として出てきます。

もちろん、それで正しいです。

ただ、図形で見ると、 それぞれの項に意味があることがわかります。

\[ ac \]

は、たて \(a\) 、横 \(c\) の長方形の面積です。

\[ ad \]

は、たて \(a\) 、横 \(d\) の長方形の面積です。

\[ bc \]

は、たて \(b\) 、横 \(c\) の長方形の面積です。

\[ bd \]

は、たて \(b\) 、横 \(d\) の長方形の面積です。

つまり、 \((a+b)(c+d)\) を展開したときに4つの項が出てくるのは、 長方形を4つに分けているからです。

計算としては分配法則。

図形としては面積の分割。

やっていることは違って見えますが、 見ているものは同じです。

\((a+b)^2\) も同じように見える

ここまでわかると、 よく出てくる公式 \((a+b)^2\) も自然に見えてきます。

\((a+b)^2\) は、 \((a+b)(a+b)\) のことです。

\[ (a+b)^2=(a+b)(a+b) \]

先ほどの公式 \((a+b)(c+d)=ac+ad+bc+bd\) で、 \(c=a\)、\(d=b\) と考えれば、

\[ (a+b)(a+b) = a\cdot a+a\cdot b+b\cdot a+b\cdot b \]

つまり、

\[ (a+b)^2 = a^2+ab+ab+b^2 \]

同類項をまとめると、

\[ (a+b)^2=a^2+2ab+b^2 \]

これで、よく見る乗法公式になります。

図形で見れば、 たて \(a+b\) 、横 \(a+b\) の正方形を、 \(a\) と \(b\) で分けているだけです。

すると、 \(a^2\) の正方形、 \(ab\) の長方形が2つ、 \(b^2\) の正方形ができます。

だから、

\[ a^2+2ab+b^2 \]

になるわけです。

公式は暗記してよい。ただし、意味も見たい

ここまで読むと、 「結局、毎回こんなことを考えないといけないのか」 と思うかもしれません。

もちろん、そんなことはありません。

乗法公式は、最終的には覚えて使えるようにしたほうがいいです。

計算問題を解くたびに、毎回長方形を思い浮かべる必要はありません。

ただし、一度は なぜそうなるのか を見ておいたほうがよいです。

公式をただの暗記として持っているのと、 分配法則や面積の分割として理解しているのとでは、 あとの伸び方が変わります。

特に、文字式が苦手な生徒ほど、 「なぜ突然4つの項が出てくるのか」 が見えていないことがあります。

そこを図形で見ると、 かなり納得しやすくなります。

数学では、同じ内容をいろいろな角度から見ることが大切です。

式で見る。

図形で見る。

具体的な数で見る。

それぞれの見方がつながってくると、 公式はただの暗記ではなくなります。

今回のまとめ

今回は、 \((a+b)(c+d)\) を2つの方法で見ました。

1つ目は、分配法則による代数的な証明です。

\[ A=a+b \] \[ (a+b)(c+d)=A(c+d)=Ac+Ad \] \[ =(a+b)c+(a+b)d \] \[ =ac+bc+ad+bd \] \[ =ac+ad+bc+bd \]

2つ目は、長方形の面積による説明です。

たて \(a+b\) 、横 \(c+d\) の長方形を考えると、 全体の面積は \((a+b)(c+d)\) です。

その長方形を4つに分けると、 それぞれの面積は \(ac\)、\(ad\)、\(bc\)、\(bd\) になります。

したがって、

\[ (a+b)(c+d)=ac+ad+bc+bd \]

となります。

乗法公式は、暗記して使えるようにすることも大切です。

ただ、その裏側には、 分配法則と面積の考え方があります。

公式は、ただ覚えるものではありません。

何度も使う中で、 「なぜそうなるのか」 も一緒に見えてくると、数学はかなり楽になります。

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