塾長ノート

意味論と統辞論の違い

意味から見るか、構造から見るか

文法を考えていると、 同じ表現なのに、説明の仕方がいくつもあることに気づきます。

たとえば、 of の用法を考えるときもそうです。

of を「全体と部分」「所有」「内容」「原因」のように意味から整理することもできます。

一方で、 the arrival of the trainthe train は意味上の主語に近い、 the destruction of the citythe city は意味上の目的語に近い、 というように構造から整理することもできます。

ここで関わってくるのが、 意味論統辞論 という見方です。

難しそうな名前ですが、まずはシンプルに考えて大丈夫です。

意味論は、意味から見る。

統辞論は、構造から見る。

この記事では、この2つの違いを、 英語の文法、とくに of の用法と結びつけながら整理していきます。

意味論は「どういう意味か」を見る

まず、 意味論 から見ていきます。

意味論は、かなり大ざっぱに言えば、 言葉がどのような意味を表しているか を考える分野です。

単語の意味、文の意味、表現どうしの意味関係などを扱います。

たとえば、 dog は何を指すのか。

biglarge はどのように違うのか。

John opened the door. という文では、誰が何をしたのか。

このような問いは、意味論的な問いです。

文法を学ぶときも、 私たちはかなり多くの場面で意味論的に考えています。

He gave Mary a book.

この文を見たとき、 「彼がメアリーに本をあげた」と理解します。

つまり、 He が動作主、 Mary が受け手、 a book が渡されるものだと考えます。

これは、文の意味を見ているわけです。

もちろん、実際には構造も関係しています。

ただ、まず「この文はどういう意味なのか」と考える見方は、 意味論的な見方に近いと言えます。

統辞論は「どう組み立てられているか」を見る

次に、 統辞論 です。

統辞論は、英語では syntax と呼ばれます。

これは、語や句がどのように組み合わさって、 句・節・文を作るのかを考える分野です。

つまり、統辞論は、 文の構造 を見ます。

たとえば、次の文を見てみます。

The boy kicked the ball.

意味としては、 「その少年がボールを蹴った」です。

しかし、統辞論的に見ると、 もう少し構造に注目します。

  • The boy が主語の位置にある
  • kicked が動詞として文の中心にある
  • the ball が目的語の位置にある

つまり、 「誰が何をしたか」という意味だけではなく、 それぞれの語句が文の中でどの位置にあり、 どのような関係を作っているかを見ています。

これが統辞論的な見方です。

学校文法で言えば、 主語、動詞、目的語、補語、修飾語などを見る作業は、 統辞論的な見方にかなり近いです。

意味と構造は同じではない

ここで大切なのは、 意味構造 は同じではない、ということです。

多くの場合、意味と構造はきれいに対応します。

The boy kicked the ball.

この文では、 主語の The boy が、意味上も動作をする人です。

目的語の the ball が、意味上も動作を受けるものです。

かなりわかりやすい文です。

しかし、いつもこのように単純とは限りません。

The ball was kicked by the boy.

この文では、 The ball が文の主語になっています。

しかし、意味上は、ボールが蹴ったわけではありません。

ボールは蹴られたものです。

動作をしたのは、 the boy です。

つまり、この文では、 統辞上の主語と、意味上の動作主がずれています。

このように、言葉を考えるときには、 文の形としてどうなっているか と、 意味として何が起きているか を分けて見る必要があります。

of の用法でも、意味と構造を分けて見る

この違いは、 of の用法を考えるときにも重要です。

たとえば、次の表現を見てください。

one of my friends

意味の面から見ると、 これは「私の友達というまとまりの中の一人」です。

つまり、 全体と部分 の関係です。

a cup of coffee

これは「コーヒー一杯」です。

意味の面から見ると、 容器・単位と中身 の関係です。

the city of Tokyo

これは「東京という都市」です。

意味の面から見ると、 説明同格 に近い関係です。

このように、 of は意味の面から分類できます。

全体と部分、所有・所属、内容、材料、原因、同格。

これは、かなり学習者にとって役に立つ整理です。

ただし、 of には、意味だけでは整理しきれない面もあります。

そこで、統辞論的な見方が必要になります。

the arrival of the train をどう見るか

ここから少しだけ、文法的に深い話に入ります。

次の表現を見てください。

the arrival of the train

日本語では「電車の到着」と訳せます。

ここで of を「〜の」と訳すだけなら、とくに難しくありません。

しかし、少し構造を掘ると、 この表現は次の文と関係しています。

The train arrived.

つまり、 the train は、 arrival という出来事に対して、 到着する側です。

動詞に戻して考えれば、 the train は主語にあたります。

このような関係を、 主格的 な関係として見ることがあります。

ここで注意したいのは、 the train が英文の主語そのものだと言っているわけではない、 ということです。

the arrival of the train は名詞句です。

文ではありません。

そのため、 the train が文法上の主語になっているわけではありません。

ただし、 意味の関係としては、 The train arrived. の主語に近い働きをしている。

だから、 「意味上の主語に近い」と説明するわけです。

the destruction of the city をどう見るか

次に、似た形の表現を見てみます。

the destruction of the city

これも、日本語では「都市の破壊」と訳せます。

形だけ見れば、 the arrival of the train と同じです。

どちらも、 名詞 + of + 名詞 という形をしています。

しかし、中身は違います。

the destruction of the city は、 「都市が破壊する」という意味ではありません。

そうではなく、 「都市が破壊される」 あるいは 「誰かが都市を破壊する」 という関係です。

Someone destroyed the city.

動詞に戻して考えれば、 the citydestroy の目的語にあたります。

つまり、 the city は、 destruction に対して、 意味上の目的語に近い働きをしています。

これが、 目的格的 な関係です。

ここでも注意が必要です。

the city が文法上の目的語そのものになっているわけではありません。

あくまで、 名詞句の内部で、 動詞に戻したときの目的語に近い関係を持っているということです。

同じ of でも、関係は同じではない

ここまでを見ると、 同じ of でも、関係がかなり違うことがわかります。

the arrival of the train

これは、 The train arrived. に近い。

つまり、 the train は意味上の主語に近い。

the destruction of the city

これは、 Someone destroyed the city. に近い。

つまり、 the city は意味上の目的語に近い。

どちらも表面上は、 名詞 + of + 名詞 です。

しかし、内部の関係は同じではありません。

ここが、統辞論的な見方の面白いところです。

表面の訳だけでは見えない関係が、 構造を見たときに浮かび上がってきます。

意味論的な分類と統辞論的な分類は目的が違う

ここで、 意味論的な分類と統辞論的な分類の違いを整理しておきます。

意味論的な分類では、 表現がどのような意味関係を表しているかを見ます。

たとえば、 of なら、 次のように整理できます。

  • one of my friends:全体と部分
  • the roof of the house:所有・所属
  • a cup of coffee:内容・中身
  • a ring of gold:材料・構成要素
  • die of cancer:原因
  • the city of Tokyo:説明・同格

これは、意味の方向から見た分類です。

一方、統辞論的な分類では、 語句が文や句の中でどのような構造関係を持っているかを見ます。

  • the arrival of the train:the train が意味上の主語に近い
  • the destruction of the city:the city が意味上の目的語に近い
  • the city of Tokyo:Tokyo が city を説明する同格に近い

これは、構造の方向から見た分類です。

どちらか一方だけが正しいという話ではありません。

見ている角度が違うのです。

学校文法にも、この違いは関係している

この話は、大学の言語学だけの話ではありません。

学校文法にもかなり関係しています。

たとえば、英語の 文型 を考えるときも、 意味と構造は分けて考えたほうがよいです。

He became a teacher.

この文は、 SVC と説明されます。

構造としては、 a teacher が補語です。

しかし意味の面から見ると、 Hea teacher は同じ人物を指しています。

つまり、構造としては補語、 意味としては主語の説明です。

また、受動態でも同じです。

The window was broken by Tom.

構造としては、 The window が主語です。

しかし意味の面では、 窓は動作をした側ではなく、 壊された側です。

このように、 英文法を深く理解するには、 「文の形」と「意味上の関係」を分けて見ることが大切です。

意味だけで考えると、構造を見落とす

意味から考えることは、とても大切です。

ただし、意味だけで考えると、 文の構造を見落とすことがあります。

たとえば、 日本語訳だけを見ていると、 次の2つはどちらも「〜の」と処理できます。

the arrival of the train
電車の到着
the destruction of the city
都市の破壊

どちらも「の」で訳せます。

しかし、 英語の構造を考えると、 the trainthe city の関係は同じではありません。

前者では、 the train が到着する側です。

後者では、 the city は破壊される側です。

日本語訳だけでは、この違いが見えにくくなります。

だから、文法を考えるときには、 意味だけでなく、構造にも目を向ける必要があります。

構造だけで考えると、意味を見落とす

逆に、構造だけで考えるのも危険です。

文法用語だけで整理しようとすると、 実際にその表現がどのような意味を持っているのかが見えにくくなります。

たとえば、 of の用法をすべて 「主格の of 」 「目的格の of 」 「同格の of 」 とだけ分類しても、 学習者には少し硬すぎます。

まずは、 全体と部分 なのか、 所有・所属 なのか、 内容 なのか、 説明 なのか。

そういう意味の方向から見たほうが、 直感的に理解しやすいことも多いです。

つまり、意味論的な見方と統辞論的な見方は、 どちらか一方を選ぶものではありません。

両方を使い分けるものです。

文法は、意味と構造の両方から見る

文法を考えるときに大切なのは、 意味構造 の両方を見ることです。

意味だけを見ると、 なんとなく訳せるけれど、文の仕組みが見えないことがあります。

構造だけを見ると、 文法用語は並ぶけれど、実際の意味が見えないことがあります。

だから、 英文法では次の2つの問いを持っておくとよいです。

  • この表現は、どういう意味を表しているのか
  • この表現は、どのような構造になっているのか

この2つを行き来できると、 文法の理解はかなり深くなります。

たとえば of の用法も、 ただ「〜の」と訳すだけではなくなります。

これは全体と部分なのか。

所有なのか。

内容なのか。

同格なのか。

それとも、主格的・目的格的な関係なのか。

こうした視点が持てると、 ひとつの前置詞からかなり多くのことが見えてきます。

今回のまとめ

意味論と統辞論は、 文法を見るときの大切な二つの視点です。

意味論は、 言葉がどのような意味を表すか を見ます。

統辞論は、 語や句がどのように組み合わさって文を作るか を見ます。

簡単に言えば、 意味論は「意味から見る」。

統辞論は「構造から見る」。

もちろん、実際の言語は、 意味と構造が深く結びついています。

だから、完全に切り離せるわけではありません。

ただ、考えるときには分けておいたほうが見えやすいことがあります。

of の用法も同じです。

意味の面から見れば、 全体と部分、所有、内容、材料、原因、同格などに分けられます。

構造の面から見れば、 主格的な of 、 目的格的な of 、 同格的な of などに分けて考えることができます。

どちらか一方だけで十分というわけではありません。

意味から見るからこそわかることがある。

構造から見るからこそわかることがある。

英文法を深く理解するには、 この二つの視点を行き来することが大切です。

文法は、ただ用語を覚えるものではありません。

言葉がどのように意味を作り、 どのように形として組み立てられているのかを見るための道具です。

意味論と統辞論の違いを知っておくと、 その道具の使い方が少し見えやすくなります。

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