これまでの記事では、英語の 法 について整理してきました。
直説法は、文の内容を事実として述べる法。
命令法は、相手に行動を求める法。
仮定法は、現実から距離を取って述べる法。
こうして見ていくと、英語にもたしかに 法 はあります。
ただし、英語では法がかなり見えにくくなっています。 その理由の一つは、現代英語では動詞の形態変化が少なくなっているからです。
一方、フランス語では、法が文法項目としてかなりはっきり見えます。
今回は、フランス語の法と英語の法を比べながら、 英語の法がなぜ見えにくいのか、そして英語にもどのような形で法が残っているのかを整理していきます。
フランス語では法が見えやすい
フランス語を学ぶと、かなり早い段階で mode という考え方に出会います。
代表的なものとして、次のような法があります。
- indicatif:直説法
- subjonctif:接続法
- conditionnel:条件法
- impératif:命令法
もちろん、フランス語文法の分類には細かい議論もあります。 ただ、学習者の感覚としては、フランス語では「法」という枠組みがかなり前面に出てきます。
たとえば、同じ動詞でも、直説法なのか、接続法なのか、条件法なのかで形が変わります。
Il est là.
彼はそこにいる。
Il faut qu'il soit là.
彼がそこにいる必要がある。
上の est は直説法です。
下の soit は接続法です。
このように、フランス語では、文の中で法の違いが形として見えやすいのです。
直説法 indicatif は事実として述べる
まず、フランス語の indicatif は、英語の直説法に対応します。
内容を事実・現実のこととして述べる法です。
Il vient.
彼は来る。
Elle habite à Paris.
彼女はパリに住んでいる。
これらは、話し手が内容を現実のこととして提示しています。
英語で言えば、
He comes.
She lives in Paris.
のような直説法の文に近いです。
直説法は、英語でもフランス語でも、もっとも基本的な法です。 そのため、あまり意識されないこともあります。
しかし、接続法や仮定法を理解するためには、まず直説法を基準として見ることが大切です。
接続法 subjonctif は主観性や不確実性に関わる
フランス語らしさが特に出るのが、 subjonctif です。
日本語では一般に 接続法 と呼ばれます。
接続法は、事実をそのまま述べるというより、 願望・必要・感情・疑い・不確実性などと関わる場面で出てきます。
Je veux qu'il vienne.
私は彼に来てほしい。
Il faut qu'il vienne.
彼が来る必要がある。
Je suis content qu'il vienne.
彼が来てくれてうれしい。
ここで使われている vienne は、venir の接続法です。
これらの文では、 「彼が来る」という内容を、単に事実として述べているわけではありません。
そこには、
- 来てほしいという願望
- 来る必要があるという判断
- 来ることへの感情
が関わっています。
つまり、接続法は、話し手の主観や評価、確実性の揺らぎと深く関わる法だと言えます。
英語にも接続法的なものは残っている
では、英語にはフランス語の接続法に対応するものがないのでしょうか。
完全にないわけではありません。
英語にも、 subjunctive と呼ばれる形があります。
特にわかりやすいのが、 仮定法現在 や mandative subjunctive と呼ばれる用法です。
I suggest that he go.
It is important that he be there.
The teacher demanded that everyone submit the report.
ここで注目したいのは、 he goes ではなく he go になっていることです。
また、 he is ではなく he be になっています。
これは、英語にも接続法的な形が残っていることを示しています。
ただし、現代英語では、この形はかなり限られた場面に残っています。 要求・提案・必要性・重要性などを表す表現のあとで見られやすいです。
フランス語の接続法と英語の仮定法現在
フランス語の接続法と英語の仮定法現在は、完全に同じものではありません。
しかし、比べるとかなり面白いです。
Il faut qu'il vienne.
彼が来る必要がある。
It is necessary that he come.
フランス語では、 vienne という接続法の形が出ます。
英語では、 come という原形の形が出ます。
どちらも、単に事実として「彼が来る」と述べているのではありません。
「彼が来る必要がある」という、必要性・要求の文脈の中で使われています。
つまり、どちらも 事実の報告ではなく、必要性や要求のもとで述べられる内容 と関係しています。
ここに、フランス語の接続法と英語の仮定法現在の接点があります。
英語では should を使うこともある
ただし、英語では常に仮定法現在を使うわけではありません。
特にイギリス英語などでは、 should を使う形もよく見られます。
It is important that he should be there.
これは、
It is important that he be there.
と近い意味を表します。
ここでは、 should が、必要性・望ましさのモダリティを担っています。
つまり、英語では、フランス語のように接続法の形が明確に出る場合もありますが、 助動詞によって同じような意味を表すこともあります。
ここが、英語の法が見えにくい理由の一つです。
英語では法の働きが分散している
フランス語では、接続法なら接続法として、動詞の形に法が比較的はっきり表れます。
一方、英語では、法の働きがいろいろなところに分散しています。
- 仮定法現在:I suggest that he go.
- 仮定法過去:If I were you...
- 法助動詞:may, must, should, would など
- 命令法:Be quiet.
- should を使う表現:It is important that he should...
つまり、英語にも法の感覚はあります。
ただし、それがフランス語ほど一つの形態体系として見えやすいわけではありません。
英語では、助動詞や過去形、語順、原形動詞などに、法やモダリティの働きが分散しているのです。
条件法 conditionnel と would
フランス語には、 conditionnel があります。
日本語では 条件法 と呼ばれます。
Je voudrais un café.
コーヒーをいただきたいのですが。
S'il avait le temps, il viendrait.
もし彼に時間があれば、彼は来るでしょう。
条件法は、仮定・丁寧さ・可能性などと関わります。
英語では、 would がかなり近い働きをすることがあります。
I would like a coffee.
If he had time, he would come.
もちろん、フランス語の conditionnel と英語の would が完全に一致するわけではありません。
しかし、どちらも現実から少し距離を取り、 仮定や丁寧さを表す点では似ています。
ここも、英語とフランス語を比べると非常に面白いところです。
命令法 impératif は比較的対応しやすい
フランス語にも、英語にも、命令法があります。
Viens ici.
ここに来なさい。
Come here.
どちらも、相手に行動を求めています。
命令法については、英語とフランス語で比較的対応が見えやすいです。
ただし、フランス語では命令法の活用形がはっきりあります。
一方、英語では、動詞の原形を使い、ふつう主語を出さない形になります。
Be quiet.
Listen carefully.
英語では形はシンプルですが、働きとしてはやはり命令法です。
英語学習者が法を見落としやすい理由
英語学習者が法を見落としやすい理由は、英語では法が形としてはっきり出にくいからです。
フランス語では、
indicatif
subjonctif
conditionnel
impératif
のように、法の分類が文法学習の中心に出てきます。
一方、英語では、
- 現在形
- 過去形
- 助動詞
- 仮定法
- 命令文
のように、別々の項目として学ぶことが多いです。
そのため、
これらがすべて「話し手が文をどう提示するか」に関係している
という視点が見えにくくなります。
ここでフランス語と比べると、英語にも法の感覚があることが見えやすくなります。
学習者はどう考えればよいか
英語学習者にとって大切なのは、 英語には法がない と考えないことです。
英語にも、直説法・命令法・仮定法があります。
また、法助動詞によって、可能性・義務・推量・意志・丁寧さなどを表します。
ただし、それらがフランス語ほど整った形態変化として見えにくいのです。
だから、英語の法を理解するには、
動詞の形だけを見るのではなく、
助動詞・過去形・原形・語順・文全体の働きを見る
ことが必要です。
そして、フランス語を知っている人にとっては、 英語の法を考えるとき、フランス語の法の体系がよい補助線になります。
まとめ
フランス語と英語を比べると、 法 の見え方の違いがよくわかります。
- フランス語では、indicatif / subjonctif / conditionnel / impératif のように法が文法項目として見えやすい
- 英語にも、直説法・命令法・仮定法がある
- ただし、英語では法の形態変化がかなり弱く、法の働きが見えにくい
- フランス語の接続法は、願望・必要・感情・不確実性などと関係する
- 英語にも、I suggest that he go. のような仮定法現在が残っている
- 英語では、should や法助動詞によって法・モダリティを表すことも多い
- フランス語の条件法と英語の would には、仮定や丁寧さという点で似た働きがある
フランス語では、法がかなり見えやすい。
英語では、法が見えにくい。
しかし、英語に法がないわけではありません。
英語では、法の働きが、仮定法現在、仮定法過去、命令法、法助動詞、過去形の距離感などに分散しているのです。
だからこそ、英語の仮定法や法助動詞を理解するには、 法 という大きな視点を持つことが大切です。
フランス語との比較は、その視点を得るためのよい入口になります。