塾長ノート

相対テンスと絶対テンスとは何か

時制の一致を日本語から考える

英語を勉強していると、 時制の一致 という言葉が出てきます。

I think that he is sick.
私は、彼が病気だと思う。
I thought that he was sick.
私は、彼が病気だと思った。

日本語では「病気だ」と言っているのに、英語では was sick になる。

ここで、

was だから「病気だった」ではないのか

と混乱する人がいます。

しかし、ここを理解するには、英語だけを見るよりも、 まず日本語のテンス感覚を見たほうがわかりやすいです。

今回は、 相対テンス絶対テンス という考え方を使って、 日本語の文から英語の時制の一致へ橋をかけてみたいと思います。

絶対テンスとは何か

まず、 絶対テンス から考えます。

絶対テンスとは、ざっくり言えば、 話している今 を基準にして、過去・現在・未来を決める考え方です。

彼は病気だ。

これは、話している今を基準にして、 彼が病気であることを表しています。

彼は病気だった。

これは、話している今より前に、 彼が病気だったことを表しています。

つまり、

発話時より前 → 過去
発話時と同時 → 現在
発話時より後 → 未来

という見方です。

これが絶対テンスです。

相対テンスとは何か

一方、 相対テンス は、話している今ではなく、 文の中の別の時点 を基準にします。

たとえば、次の文を見てください。

私は、彼が病気だと思った。

主文は 思った です。

つまり、話し手がそう思ったのは過去です。

しかし、従属節は 彼が病気だ になっています。

ここでの 病気だ は、発話時の現在を表しているとは限りません。

むしろ、

思った時点で、彼が病気である

という意味です。

つまり、 「病気だ」 は、今を基準にした現在ではなく、 「思った時点」から見た現在 を表しています。

これが相対テンスです。

「彼が病気だと思った」の意味

次の文を、もう少し丁寧に見てみます。

私は、彼が病気だと思った。

この文では、2つの時点があります。

  • 私がそう思った時点
  • 彼が病気である時点

この文では、

思った時点

彼が病気である時点

と考えられます。

つまり、過去のある時点で、話し手は

彼は今、病気だ

と思ったわけです。

ここで大切なのは、 この文が必ずしも

今も彼が病気である

という意味ではないことです。

日本語の 「病気だ」 は、発話時の現在ではなく、 主文の 「思った」 という過去の時点を基準にしているのです。

「彼が病気だったと思った」の意味

では、次の文はどうでしょうか。

私は、彼が病気だったと思った。

この場合、彼が病気だった時点は、 思った時点よりも前 です。

つまり、

彼が病気だった時点

そのあと

私がそう思った時点

という関係になります。

たとえば、彼が数日前に学校を休んでいた。 そのあとで、話し手が

あのとき、彼は病気だったのだろう

と思った。

そのような場合に、

私は、彼が病気だったと思った。

という文になります。

ここでは、 「病気だった」 が、発話時から見た過去というだけでなく、 「思った時点」よりもさらに前 を表しています。

2つの文を比べる

ここまでを表にすると、かなり見えやすくなります。

日本語 時点の関係 意味
彼が病気だと思った 思った時点 = 病気である時点 その時点で病気だと思った
彼が病気だったと思った 病気だった時点 → 思った時点 その前に病気だったと思った

この違いは、英語の時制の一致を考えるときにとても大切です。

なぜなら、日本語の 「病気だ」 と英語の was sick が、単純には対応しないからです。

英語では I thought he was sick になる

英語では、次のように言います。

I think that he is sick.
私は、彼が病気だと思う。
I thought that he was sick.
私は、彼が病気だと思った。

主文が現在の think なら、従属節は is sick です。

一方、主文が過去の thought になると、従属節は was sick になります。

これが、いわゆる 時制の一致 として説明される現象です。

ただし、ここで注意が必要です。

英語の

I thought that he was sick.

は、ふつう日本語では

私は、彼が病気だと思った。

に近いです。

was sick だからといって、すぐに 「病気だった」 と訳すと、意味がずれることがあります。

was sick は必ず「病気だった」ではない

ここが、英語学習者にとって大事なポイントです。

I thought that he was sick.

この was sick は、英語としては過去形です。

しかし、日本語では必ずしも 「病気だった」 とは訳しません。

なぜなら、この was は、 発話時から見た単純な過去というより、 主文の thought に合わせて過去形になっているからです。

つまり、意味としては、

思った時点で、彼が病気であると思った

です。

だから、日本語では

私は、彼が病気だと思った。

と訳すのが自然な場合が多いです。

英語の過去形を見たときに、 すぐ日本語の「〜だった」に対応させると危険です。

「病気だったと思った」は had been sick

では、

私は、彼が病気だったと思った。

を英語で表すならどうなるでしょうか。

この文では、 彼が病気だった時点 が、 思った時点 よりも前です。

その関係を英語では、過去完了を使って表すことができます。

I thought that he had been sick.
私は、彼が病気だったと思った。

ここでの had been sick は、主文の thought よりも前に、彼が病気だったことを表します。

つまり、

I thought that he was sick.
→ 思った時点で病気だと思った。
I thought that he had been sick.
→ 思った時点より前に病気だったと思った。

という違いです。

日本語と英語の対応を整理する

ここまでの対応を整理してみます。

日本語 英語 意味
彼が病気だと思う I think he is sick. 今、病気だと思う
彼が病気だと思った I thought he was sick. 思った時点で病気だと思った
彼が病気だったと思った I thought he had been sick. 思った時点より前に病気だったと思った

こうして見ると、 英語の was sick と日本語の 病気だった が、常に対応するわけではないことがわかります。

英語では、主文が過去になることで従属節も過去形になることがあります。

一方、日本語では、従属節の 「だ」 が、主文の時点を基準にした現在を表すことがあります。

この違いを押さえると、時制の一致がかなり理解しやすくなります。

「家に帰ったら」は過去ではない

ここで少しだけ、日本語のタ形について補足します。

日本語では、未来の話でもタ形が使われることがあります。

家に帰ったら、宿題をしよう。

この 帰った は、過去を表しているわけではありません。

まだ家に帰っていない状況でも、この文は使えます。

ここでの たら は、

家に帰るという動作が完了したら

という条件を表しています。

つまり、タ形だから必ず過去というわけではありません。 日本語のタ形には、過去だけでなく、完了や条件と関係する用法もあります。

ただし、この話を広げすぎると、今回の主題から外れてしまいます。

今回は、 「彼が病気だと思った」「彼が病気だったと思った」 の違いを中心にして、相対テンスと英語の時制の一致を考えることにします。

学習者はどう覚えればよいか

学習者向けには、まず次のように整理するとよいです。

日本語の「だ」は、発話時の現在だけを表すとは限らない。

たとえば、

私は、彼が病気だと思った。

病気だ は、今現在ではなく、 思った時点で病気である という意味です。

そして、英語ではそれが

I thought he was sick.

になります。

つまり、英語の was を見ても、すぐに日本語の 「だった」 と対応させないことが大切です。

「思った時点から見てどうだったのか」を考えると、意味がつかみやすくなります。

まとめ

相対テンス絶対テンス は、時制を考えるうえで大切な視点です。

  • 絶対テンス は、発話時を基準にする
  • 相対テンス は、文の中の別の時点を基準にする
  • 彼が病気だと思った は、思った時点で彼が病気であるという意味
  • 彼が病気だったと思った は、思った時点より前に彼が病気だったという意味
  • I thought he was sick. は、多くの場合「彼が病気だと思った」に近い
  • I thought he had been sick. は、「彼が病気だったと思った」に近い
  • 日本語のタ形は、いつも単純な過去を表すわけではない

英語の時制の一致は、日本語だけを見ていると少しわかりにくいかもしれません。

しかし、日本語にも、 思った時点から見た現在思った時点より前 を区別する感覚があります。

その感覚をつかむと、

I thought he was sick.

が、なぜ

私は彼が病気だと思った

に近いのかが見えやすくなります。

時制をただ形で覚えるのではなく、 どの時点を基準にしているのか を見る。

そこが、相対テンスと絶対テンスを考える一番のポイントです。

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