日本語を学ぶ人にとって、 「は」 と 「が」 の違いはかなり難しいテーマです。
どちらも主語のような位置に出てくることがあります。 そのため、英語に直すとどちらも同じように見えることがあります。
私は行きます。
私が行きます。
どちらも英語にすれば、ざっくり言えば I will go. のように訳せます。
しかし、日本語としては同じではありません。
「は」 は、話題を提示します。 「〜について言えば」という感じです。
一方、 「が」 は、焦点を置きます。 「誰が?」「何が?」への答えになりやすいです。
今回は、 「は」と「が」の違い を、主題・焦点・新情報・対比という観点から整理していきます。
「私は行きます」と「私が行きます」
まず、次の2文を見てみます。
私は行きます。
私が行きます。
どちらも「私」と「行きます」が出てきます。 しかし、文の中で強く伝えたい場所が違います。
「私は行きます」 では、話題は「私」です。 そのうえで、新しく伝えたい中心は 「行きます」 のほうにあります。
私について言えば、行きます。
という感じです。
一方、 「私が行きます」 では、焦点は「私」にあります。
誰が行くのか。
私が行きます。
つまり、 「彼ではなく、彼女でもなく、私が行く」 という感じが出ます。
かなりざっくり言えば、
「は」:後ろにアクセントが来る
「が」:前にアクセントが来る
と考えると、最初の理解としてはわかりやすいです。
「は」は話題を提示する
「は」 は、文の中で話題を提示します。
たとえば、
私は学生です。
という文は、
私について言えば、学生です。
という構造です。
つまり、「私」を話題として取り上げ、その説明をあとに続けています。
このように、「は」は、
これからこのことについて話します
という目印になります。
だから、 「は」 の後ろには説明が続きやすくなります。
私は学生です。
田中さんは来ました。
この本は面白いです。
どれも、
私について言えば
田中さんについて言えば
この本について言えば
という形で説明できます。
「が」は焦点を置く
一方、 「が」 は、焦点を置く働きがあります。
たとえば、
私が行きます。
は、
誰が行くのか。
私が行きます。
という形で説明できます。
ここでは、行くということよりも、 誰が行くのか が大事です。
つまり、焦点は「私」にあります。
同じように、
田中さんが来ました。
という文も、
誰が来たのか。
田中さんが来ました。
という答えになりやすいです。
そのため、「が」は、新情報を出すときに使われやすいです。
田中さんは来ました
次の2文を比べてみます。
田中さんは来ました。
田中さんが来ました。
「田中さんは来ました」 は、田中さんを話題として取り上げています。
田中さんについて言えば、来ました。
という感じです。
この文は、後ろに何か続きそうな感じがあります。
田中さんは来ましたが、佐藤さんは来ていません。
このように、 「は」 は対比を作りやすいです。
田中さんについては来た。 しかし、佐藤さんについては来ていない。
つまり、 「は」 は、話題を取り上げるだけでなく、 他のものと比べる感じを出すことがあります。
田中さんが来ました
一方、
田中さんが来ました。
は、来た人が田中さんであることを新しく伝えています。
たとえば、誰かを待っている場面を考えるとわかりやすいです。
誰か来た?
田中さんが来ました。
ここでは、 「誰が来たのか」 が問題になっています。
その答えとして、
田中さんが
と言っています。
また、田中さんを待っていた場面でも自然です。
まだかな、まだかなと思っていた。
そこへ田中さんが来た。
この場合も、田中さんが新しく現れた人物として提示されています。
つまり、
田中さんは来ました。
→ 田中さんを話題にして、来たかどうかを述べる。
田中さんが来ました。
→ 来たのは田中さんだ、と新情報として提示する。
という違いがあります。
昔話の「が」と「は」
「は」と「が」の違いを説明するとき、昔話の形はとてもわかりやすいです。
昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
最初の文では、
おじいさんとおばあさんがいました。
と言います。
この段階では、読み手はまだ「誰がいるのか」を知りません。
誰がいたのか。
おじいさんとおばあさんがいた。
つまり、ここでの 「が」 は、新しく登場する人物を提示しています。
一方、次の文では、
おじいさんは山へ芝刈りに、
おばあさんは川へ洗濯に行きました。
と言います。
もう、おじいさんとおばあさんは紹介済みです。 そのため、次はその人物たちを話題として取り上げます。
おじいさんについて言えば、山へ芝刈りに行った。
おばあさんについて言えば、川へ洗濯に行った。
つまり、
が:新しく登場させる
は:すでに登場したものを話題にする
という流れです。
この例は、「は」と「が」の違いを考えるうえでとても大切です。
雨が降っています
次の2文も比べてみます。
雨が降っています。
雨は降っています。
「雨が降っています」 は、シンプルに事実を伝えています。
外を見て、
あ、雨が降っています。
と言うような場面です。
ここでは、「何が起きているのか」をそのまま伝えています。
一方、
雨は降っています。
は、単に雨が降っていることを伝えているだけではありません。
この文は、後ろに何か続きそうです。
雨は降っていますが、運動会は実施します。
この場合、
雨について言えば、降っている。
しかし、運動会は実施する。
という意味になります。
つまり、 「雨は」 は、雨という情報を取り出しながら、 他の情報との対比や保留を作っています。
「雨は降っています」の言外の意味
「雨は降っています」 には、言外に何かが含まれやすいです。
たとえば、誰かが、
ひどい天気なの?
と聞いたとします。
それに対して、
いや、そこまでではないけど、雨は降っています。
と答えることができます。
これは、
ひどい天気ではない。
ただし、雨という点については降っている。
という意味です。
つまり、
雨が降っています。
→ 雨が降っているという事実をそのまま伝える。
雨は降っています。
→ 雨については降っている。ただし、それ以外の点では別の話がある。
という違いがあります。
ここからも、 「は」 が対比や限定を作りやすいことがわかります。
象は鼻が長い
「は」と「が」の違いを考えるうえで、とても有名な例があります。
象は鼻が長い。
日本語教育では定番のように扱われる文です。
この文には、 「は」 と 「が」 が両方出てきます。
まず、
象は
は、話題を提示しています。
象について言えば
という意味です。
そのうえで、
鼻が長い
と続きます。
ここでは、何が長いのかが問題になっています。
象について言えば、何が長いのか。
鼻が長い。
つまり、 「鼻が」 は焦点です。
この文を分解すると、次のようになります。
| 部分 | 働き | 意味 |
|---|---|---|
| 象は | 主題 | 象について言えば |
| 鼻が | 焦点 | 何が長いのかという新情報 |
| 長い | 説明 | 鼻の性質を述べる |
つまり、
象について言えば、鼻が長い。
という構造です。
この文は、 「は」 と 「が」 の役割の違いを、とてもよく示しています。
「象が鼻は長い」はなぜ変なのか
では、
象が鼻は長い。
はどうでしょうか。
普通の文としてはかなり不自然です。
なぜなら、 「象が」 で象に焦点を置き、 「鼻は」 で鼻を話題にする形になってしまうからです。
もちろん、特殊な文脈を作れば言える場合もあります。
たとえば、いろいろな動物を比べていて、
象が、鼻は長い。
のように、かなり区切って言えば、 「象が該当する。ただし鼻について言えば長い」という特殊な形にはできます。
しかし、普通に象の特徴を述べるなら、
象は鼻が長い。
が自然です。
話題は象。 焦点は鼻。
この役割分担が、日本語として自然なのです。
「は」は対比を作りやすい
ここまで何度か出てきたように、 「は」 は対比を作りやすいです。
田中さんは来ましたが、佐藤さんは来ていません。
雨は降っていますが、風は強くありません。
英語は得意ですが、数学は苦手です。
これらの文では、あるものを話題として取り上げ、 別のものと比べています。
つまり、 「は」 は、
Aについて言えばこうだ。
Bについて言えばこうだ。
という形を作りやすいのです。
この対比の感覚は、日本語学習者にとってとても大切です。
「が」は新しく出す
一方、 「が」 は、新しく情報を出すときに使われやすいです。
玄関に人がいます。
電話が鳴っています。
雨が降っています。
これらは、その場で新しく気づいたこと、起きていることを伝えています。
たとえば、
電話が鳴っています。
は、
何が鳴っているのか。
電話が鳴っている。
という感じです。
このように、 「が」 は、焦点を示したり、新情報を出したりする働きがあります。
学習者はどう覚えればよいか
学習者向けには、まず次のように整理するとわかりやすいです。
| 表現 | 中心 | 覚え方 |
|---|---|---|
| は | 主題 | 〜について言えば |
| が | 焦点 | 誰が?何が?への答え |
たとえば、
私は行きます。
は、
私について言えば、行きます。
です。
一方、
私が行きます。
は、
誰が行くのか。
私が行きます。
です。
まずはこの違いを押さえるとよいです。
もちろん、実際の 「は」 と 「が」 はもっと複雑です。
ただ、最初の軸として、
は:話題を出す
が:焦点を置く
と考えると、かなり理解しやすくなります。
まとめ
「は」 と 「が」 は、どちらも日本語の基本的な助詞です。
しかし、役割は同じではありません。
- は は、話題・主題を提示する
- は は、「〜について言えば」という感覚を持つ
- は は、対比を作りやすい
- が は、新情報や焦点を提示する
- が は、「誰が?」「何が?」への答えになりやすい
- 初登場のものには が、すでに出たものを話題にするときは は が使われやすい
たとえば、
私は行きます。
は、「私について言えば、行きます」という話題提示です。
一方、
私が行きます。
は、「誰が行くのか」に対する答えです。
また、
昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
では、最初に が で人物を登場させ、そのあと は で話題として取り上げています。
そして、
象は鼻が長い。
では、
象は:象について言えば
鼻が:何が長いのかという焦点
という役割分担があります。
「は」と「が」は、日本語の中でも非常に奥が深いテーマです。 ただ、まずは 主題 と 焦点 の違いとして見ると、かなり整理しやすくなります。