英語の仮定法というと、多くの人はまず If I were 〜 や If I had 〜 のような形を思い浮かべる。
たとえば、
If I were rich, I would buy a big house.
もし私がお金持ちなら、大きな家を買うのに。
のような文である。
これは、現実とは違う仮定を表す仮定法である。
ところが、英語にはもう一つ、少し見えにくい仮定法がある。
仮定法現在
と呼ばれるものである。
たとえば、次の文を見てほしい。
I suggest that he go there.
意味は、
私は、彼がそこへ行くことを提案する。
である。
ここで不思議なのは、 he go になっていることである。
普通の現在形なら、
he goes
になりそうである。
三人称単数現在だから、動詞に -s がつくはずだと思う。
しかし、ここでは go という原形が使われている。
これが、仮定法現在である。
仮定法現在は、接続法の名残として見るとわかりやすい
仮定法現在は、英語だけで見ると少し唐突に見える。
なぜなら、 he go という形が、普通の現在形から外れているからである。
しかし、フランス語などを学んだことがある人なら、ここで少し違う見え方をすると思う。
ああ、英語にも接続法的なものが、こんなところに残っているのか。
という感じである。
フランス語では、要求・願望・必要性・感情などを表す表現のあとに、接続法が出てくる。
つまり、まだ現実の事実として述べているのではなく、
そうであってほしい
そうするべきだ
そうするよう求める
という内容を表すときに、直説法とは違う形が現れる。
英語の仮定法現在も、発想としてはかなり近い。
ただし、現代英語では、フランス語のように豊かな活用形として見えるわけではない。
そのかわりに、動詞の原形が置かれる。
だから、
接続法的な領域なのはわかる。
でも、活用しないのかよ。
という、少し変な見え方をする。
ここが、英語の仮定法現在の面白いところである。
仮定法現在は、動詞の原形で表れる
仮定法現在の特徴は、動詞が原形になることである。
たとえば、
I suggest that he go there.
では、 he という三人称単数の主語がある。
しかし、 goes ではなく、 go が使われている。
他にも、次のような例がある。
They demanded that he leave immediately.
彼らは、彼がすぐに出発することを要求した。
It is important that she be honest.
彼女が正直であることが重要だ。
ここでも、 he leaves ではなく he leave である。
また、 she is ではなく、 she be になっている。
このように、仮定法現在では、主語の人称や数に関係なく、動詞の原形が現れる。
なぜ「現在」なのか
ここで、名前が少しややこしい。
仮定法現在という名前を見ると、
現在のことを表す仮定法なのか
と思うかもしれない。
しかし、ここでいう「現在」は、意味としての現在というより、動詞の形の名前である。
仮定法現在は、普通の現在形とは違う。
普通の現在形なら、
He goes there.
である。
しかし、仮定法現在では、
I suggest that he go there.
となる。
三単現の -s が出てこない。
「現在」と呼ばれていても、単純な現在時制とは別物として考えた方がよい。
要求・提案・必要性の中で出やすい
仮定法現在は、特に要求・提案・命令・必要性を表す語の後で出やすい。
たとえば、次のような動詞である。
- suggest:提案する
- recommend:勧める
- demand:要求する
- insist:強く主張する
- request:依頼する
例文で見ると、次のようになる。
I suggest that he go there.
The teacher recommended that she study harder.
They demanded that the rule be changed.
どれも、単なる事実を述べているのではない。
「そうするべきだ」「そうなってほしい」「そうするよう求める」という内容を表している。
つまり、まだ現実に起きた事実ではなく、要求・提案の中にある内容である。
だから、普通の直説法ではなく、仮定法現在が使われる。
形容詞の後にも出る
仮定法現在は、動詞の後だけでなく、必要性や重要性を表す形容詞の後にも出る。
たとえば、
- important:重要な
- necessary:必要な
- essential:不可欠な
- vital:極めて重要な
のような語である。
It is important that he be on time.
これは、
彼が時間通りにいることが重要だ。
という意味である。
普通の現在形なら he is になりそうだが、ここでは he be になっている。
これも仮定法現在である。
その内容は、単なる事実の説明ではなく、
そうあるべきだ
という必要性を表している。
イギリス英語では should を挟む形もある
ここで面白いのが、 should を使う形である。
仮定法現在の代わりに、
I suggest that he should go there.
のように言うことがある。
特にイギリス英語では、この should を挟む形が比較的自然に使われることがある。
一方、アメリカ英語では、
I suggest that he go there.
のように、原形を使う仮定法現在が比較的よく見られる。
ここが少し面白い。
なんとなく、イギリス英語の方が古い形を保ち、アメリカ英語の方が新しい形を好みそうな印象があるかもしれない。
しかし、この用法では、むしろアメリカ英語の方が接続法現在の原形を比較的そのまま使い、イギリス英語では should を挟む形が出てくることがある。
これは、かなり面白い逆転である。
英語史や英語の地域差を見ると、こういう「イメージ通りではない」現象が出てくる。
だから、文法は単なるルール暗記では終わらない。
その背後には、言語の変化や地域差がある。
should を入れると、意味が見えやすくなる
I suggest that he go there. は、英語としては正しい。
しかし、学習者から見ると、 he go が少し見えにくい。
三単現の -s がないので、普通の現在形から外れていることはわかる。
ただ、それがなぜなのかは見えにくい。
一方、
I suggest that he should go there.
なら、 should が入ることで、
彼が行くべきだという提案
という意味が見えやすくなる。
つまり、 should は、仮定法現在が持っている「そうするべき内容」という意味を、表面上わかりやすくしているとも言える。
ただし、文法的には he go の形も重要である。
英語の中に、接続法的な領域が原形として残っているからである。
普通の現在形との違い
仮定法現在と普通の現在形の違いは、意味にも表れる。
次の2つを比べてみる。
I insist that he is honest.
I insist that he be honest.
1つ目の he is honest は、直説法である。
これは、
彼は正直だと私は強く主張する。
という意味になる。
つまり、彼が正直であるという事実について主張している。
一方、
I insist that he be honest.
は、
彼が正直であるように、私は要求する。
という意味になる。
こちらは、彼が正直であるべきだという要求である。
同じ insist でも、後ろが直説法か仮定法現在かで、意味が変わることがある。
これはかなり大事である。
仮定法現在は「事実」ではなく「望まれる内容」を表す
仮定法現在の本質は、
まだ事実として述べていない内容を、要求・提案・必要性として置く
ところにある。
たとえば、
I suggest that he go there.
では、彼が実際にそこへ行ったかどうかはまだわからない。
話し手は、彼がそこへ行くことを提案している。
つまり、that節の中は「事実の報告」ではなく、「望まれる行動」である。
同じように、
It is necessary that the rule be changed.
では、ルールがすでに変更されたと言っているのではない。
ルールが変更される必要があると言っている。
このように、仮定法現在は、現実に起きたことをそのまま述べる形ではない。
要求・提案・必要性の中にある内容を表す形である。
英語だけを見ると見落としやすい
仮定法現在が難しい理由の一つは、現代英語では形がかなり簡略化されていることである。
フランス語のように、接続法としてわかりやすい活用形が見えるわけではない。
英語では、動詞の原形として現れる。
だから、
he go
という形だけを見ると、単に三単現の -s が落ちているように見える。
しかし、これはミスではない。
そこには、接続法的な発想が残っている。
つまり、英語の仮定法現在は、
形はかなり簡略化されているが、機能としては接続法的なものが残っている
と見るとわかりやすい。
日本語に訳すと見えにくい
仮定法現在が難しいもう一つの理由は、日本語に訳すと形の違いが消えやすいことである。
たとえば、
I suggest that he go there.
は、
私は彼がそこへ行くことを提案する。
と訳せる。
日本語訳だけを見ると、 go が原形であることはあまり見えてこない。
しかし、英語では、
he goes
ではなく、
he go
になっている。
ここに、英語の文法上の意味がある。
日本語にきれいに訳せるかどうかだけで判断すると、この違いを見落としやすい。
学習者はどう覚えればよいか
学習の段階では、まず形を押さえるとよい。
要求・提案・必要性を表す語 + that + 主語 + 動詞の原形
である。
たとえば、
suggest that he go
demand that she leave
important that he be present
のように覚える。
特に be が出てくる文は、仮定法現在だと気づきやすい。
なぜなら、 he be や she be は、普通の現在形では出てこないからである。
そこから、
これは事実ではなく、要求・提案・必要性の中身を述べているのだ
と考えるとよい。
そして、もう少し踏み込むなら、
英語にも接続法的な領域があり、それが現代英語では原形として残っている
と見ると、かなり理解しやすくなる。
まとめ
仮定法現在とは、要求・提案・必要性などを表す節の中で、動詞の原形を使う形である。
たとえば、
I suggest that he go there.
では、 he goes ではなく he go になる。
また、
It is important that he be on time.
では、 he is ではなく he be になる。
この形は、普通の現在形ではない。
事実をそのまま述べるのではなく、要求・提案・必要性の中にある内容を表している。
フランス語などの接続法を知っていると、英語にもそのような接続法的なものが残っていることに気づきやすい。
ただし、現代英語では、豊かな活用形としてではなく、動詞の原形として現れる。
ここが、英語の仮定法現在の面白いところである。
また、イギリス英語では should を挟む形も見られる。
I suggest that he should go. のように言うことで、「そうするべき内容」であることが表面上わかりやすくなる。
一方、アメリカ英語では I suggest that he go. のような原形の仮定法現在が比較的よく使われる。
仮定法現在は、英語の中に残っている接続法的な感覚を知るうえで、とても面白い形である。