中学校や高校で、 \(\sqrt{2}\) という数が出てくる。
たとえば、一辺の長さが1の正方形を考えると、その対角線の長さは \(\sqrt{2}\) である。
三平方の定理
\[ 1^2+1^2=2 \] \[ \text{対角線の長さ}=\sqrt{2} \]図形としては、とても自然に出てくる数である。
ところが、この \(\sqrt{2}\) は、分数では表すことができない。
\(\sqrt{2}\) は無理数である。
これは、かなり深い事実である。
目の前に普通に現れる長さなのに、 \(\frac{a}{b}\) という分数の形では表せない。
今回は、 \(\sqrt{2}\) が無理数であることを、背理法で見ていきたい。
有理数と無理数
まず、言葉を整理しておく。
有理数とは、整数の比で表せる数である。
有理数
\[ \frac{a}{b} \] \[ a,b\text{ は整数},\quad b\neq0 \]たとえば、 \(\frac{1}{2}\), \(\frac{3}{4}\), \(-\frac{5}{7}\) は有理数である。
また、整数も有理数である。
なぜなら、
\[ 3=\frac{3}{1} \]のように書けるからである。
一方、無理数とは、有理数ではない数である。
整数の比では表せない数
と考えるとよい。
\(\sqrt{2}\) は、その代表例である。
√2はだいたい1.414…である
\(\sqrt{2}\) は、だいたい
\[ 1.41421356\cdots \]である。
小数としていくらでも近似することはできる。
たとえば、
\[ 1.4,\quad 1.41,\quad 1.414,\quad 1.4142 \]のように、小数で近い値を出すことはできる。
しかし、どれも \(\sqrt{2}\) そのものではない。
ここで言いたいのは、
近い分数や小数は作れるが、完全に一致する分数は存在しない
ということである。
では、それをどうやって証明するのか。
そこで使うのが、背理法である。
背理法とは何か
背理法とは、ざっくり言えば、
もし反対のことが成り立つと仮定したら、矛盾が起きる。だから元の主張が正しい。
という証明方法である。
今回証明したいのは、
\[ \sqrt{2}\text{ は無理数である} \]ということだ。
そこで、あえて反対を仮定する。
\(\sqrt{2}\) が有理数だと仮定する。
つまり、 \(\sqrt{2}\) が分数で表せると仮定するのである。
その仮定から進めていくと、最後に矛盾が出る。
だから、最初の仮定が間違っていたとわかる。
これが背理法の流れである。
√2が分数で表せると仮定する
では、実際に証明していく。
まず、 \(\sqrt{2}\) が有理数だと仮定する。
すると、ある整数 \(a,b\) を使って、
反対を仮定する
\[ \sqrt{2}=\frac{a}{b} \] \[ a,b\text{ は整数},\quad b\neq0 \]と書けるはずである。
さらに、この分数は約分しきっているとする。
つまり、 \(a\) と \(b\) は互いに素であると考える。
互いに素とは、共通の約数が1しかないという意味である。
分数で表せるなら、必ず約分しきった形にできる。
だから、最初から約分しきった形で考えてよい。
両辺を2乗する
次に、両辺を2乗する。
両辺を2乗する
\[ \sqrt{2}=\frac{a}{b} \] \[ 2=\frac{a^2}{b^2} \]両辺に \(b^2\) をかけると、
整理する
\[ 2b^2=a^2 \]つまり、
\[ a^2=2b^2 \]である。
この式から、 \(a^2\) は偶数であることがわかる。
なぜなら、右辺が \(2b^2\) という2の倍数になっているからである。
a²が偶数なら、aも偶数である
ここで大事な事実を使う。
\(a^2\) が偶数なら、\(a\) も偶数である。
これは、少し確認しておきたい。
もし \(a\) が奇数なら、 \(a=2k+1\) と書ける。
そのとき、
奇数の2乗
\[ a=2k+1 \] \[ a^2=(2k+1)^2=4k^2+4k+1 \] \[ =2(2k^2+2k)+1 \]となる。
これは奇数である。
つまり、奇数を2乗すると奇数になる。
だから、逆に \(a^2\) が偶数なら、 \(a\) は偶数でなければならない。
今回、
\[ a^2=2b^2 \]なので、 \(a^2\) は偶数である。
したがって、 \(a\) も偶数である。
aを偶数として置く
\(a\) が偶数なら、ある整数 \(k\) を使って、
\[ a=2k \]と書ける。
これを
\[ a^2=2b^2 \]に代入する。
a=2k を代入する
\[ (2k)^2=2b^2 \] \[ 4k^2=2b^2 \] \[ 2k^2=b^2 \]したがって、 \(b^2\) も偶数である。
すると、先ほどと同じ理由で、 \(b\) も偶数である。
つまり、
\(a\) も偶数であり、\(b\) も偶数である
ことがわかった。
ここで矛盾が起きる
しかし、最初に \(\frac{a}{b}\) は約分しきった形だとした。
つまり、 \(a\) と \(b\) は互いに素であるはずだった。
ところが、今の計算から、 \(a\) も \(b\) も偶数であることがわかった。
つまり、どちらも2で割れる。
これは、互いに素であることに反する。
矛盾
\[ a,b\text{ は互いに素} \] \[ \text{しかし }a,b\text{ はどちらも偶数} \]ここで矛盾が出た。
したがって、最初の仮定、
\[ \sqrt{2}=\frac{a}{b} \]と表せるという仮定が間違っていたことになる。
よって、 \(\sqrt{2}\) は有理数ではない。
つまり、 \(\sqrt{2}\) は無理数である。
証明全体をもう一度まとめる
証明の流れを整理すると、次のようになる。
証明の流れ
\[ \sqrt{2}=\frac{a}{b} \] \[ \text{と約分しきった分数で表せると仮定する} \] \[ 2=\frac{a^2}{b^2} \] \[ a^2=2b^2 \] \[ a^2\text{ は偶数なので }a\text{ も偶数} \] \[ a=2k\text{ とおく} \] \[ b^2=2k^2 \] \[ b^2\text{ は偶数なので }b\text{ も偶数} \] \[ a,b\text{ が両方偶数となり、約分しきった分数であることに矛盾} \]したがって、 \(\sqrt{2}\) は分数で表せない。
つまり、無理数である。
なぜこの証明が美しいのか
この証明は、とても短い。
使っている道具も、そこまで難しくない。
- 偶数・奇数
- 分数の約分
- 2乗
- 背理法
それだけで、 \(\sqrt{2}\) が分数で表せないことを示している。
ここに、この証明の美しさがあると思う。
\(\sqrt{2}\) は、正方形の対角線として自然に現れる。
しかし、その数は分数では表せない。
つまり、図形の中から、分数だけでは足りない数の世界が現れてくる。
これはかなり面白い。
目に見える長さなのに、整数の比では表せない。
この事実が、数の世界を広げている。
無理数は「わけのわからない数」ではない
無理数という名前は、少し誤解を生みやすい。
「無理」という言葉が入っているので、どこか不自然な数のように見える。
しかし、無理数は決して変な数ではない。
\(\sqrt{2}\) は、一辺1の正方形の対角線として自然に出てくる。
円周率 \(\pi\) も、円の周長や面積から自然に出てくる。
自然に出てくるのに、分数では表せない。
それが無理数である。
つまり、無理数は「変な数」ではなく、
有理数だけでは表しきれない数
と考えた方がよい。
数の世界が広がる瞬間
最初に数を習うとき、まず自然数がある。
そこから、0、負の数、分数、小数へと広がっていく。
そして、さらに進むと、分数では表せない数が出てくる。
それが無理数である。
\(\sqrt{2}\) は、その入口としてとてもよい。
計算も証明もそこまで長くない。
しかし、そこから見えてくることは大きい。
分数で表せる数だけでは、数直線は埋まらない。
数の世界には、もっと多くの数がある。
\(\sqrt{2}\) の証明は、そのことを教えてくれる。
まとめ
\(\sqrt{2}\) は、分数で表すことができない。
つまり、無理数である。
証明では、まず反対に \(\sqrt{2}\) が分数で表せると仮定する。
そして、
\[ \sqrt{2}=\frac{a}{b} \]と約分しきった形で書けるとする。
両辺を2乗すると、
\[ a^2=2b^2 \]となる。
ここから、 \(a\) が偶数であることがわかる。
さらに \(a=2k\) と置くと、 \(b\) も偶数であることがわかる。
しかし、\(a\) と \(b\) が両方偶数なら、分数 \(\frac{a}{b}\) は約分できる。
これは、最初に約分しきった形としたことに矛盾する。
したがって、 \(\sqrt{2}\) は分数では表せない。
この証明の面白さは、偶数・奇数という素朴な性質だけで、数の世界が有理数の外まで広がることを示している点にある。
\(\sqrt{2}\) は、ただのルートの計算ではない。
無理数という世界への入口なのである。