高校数学で微分を習うとき、多くの場合、微分は
接線の傾きを求めるもの
として出てくる。
もちろん、これは正しい。
ある点での微分係数は、その点における接線の傾きを表している。
また、導関数を使えば関数の増減がわかり、2階導関数を使えばグラフの凹凸も調べられる。
高校数学では、微分はだいたいこのあたりで使われる。
しかし、もう少し踏み込むと、微分には別の見方が出てくる。
その関数は、何回微分できるのか。
これは単なる計算回数の話ではない。
何回微分できるかは、その関数がどれくらいなめらかなのか、そしてその関数の形をどこまで細かく読み取れるのか、という話につながっている。
今回は、微分を「接線の傾き」から少し広げて、なめらかさ、そしてテーラー展開の入口まで見ていきたい。
1回微分できるとはどういうことか
まず、1回微分できるということから考える。
関数 \(f(x)\) がある点 \(x=a\) で微分できるとは、その点で接線の傾きがきちんと1つに決まるということである。
微分係数は、次の極限で定義される。
微分係数の定義
\[ f'(a)=\lim_{h\to 0}\frac{f(a+h)-f(a)}{h} \]これは、\(x=a\) の近くで関数がどれくらい変化するかを見ている。
もっと感覚的に言えば、
その点でグラフがどちらの方向に、どれくらいの傾きで進んでいるか
を調べている。
だから、1回微分できるということは、グラフがその点である程度なめらかにつながっているということである。
逆に、グラフがそこで折れ曲がっていると、微分できないことがある。
絶対値関数は0で微分できない
代表的な例が、絶対値関数である。
絶対値関数
\[ f(x)=|x| \]このグラフは、\(x=0\) で折れ曲がっている。
右側から見ると、グラフの傾きは \(1\) である。
一方、左側から見ると、グラフの傾きは \(-1\) である。
左右で傾きが違う
\[ x>0 \quad \text{では} \quad |x|=x \] \[ x<0 \quad \text{では} \quad |x|=-x \]つまり、\(x=0\) に近づく方向によって、傾きが変わってしまう。
そのため、\(x=0\) で接線の傾きを1つに決めることができない。
だから、\(f(x)=|x|\) は \(x=0\) で微分できない。
グラフはつながっている。
しかし、なめらかではない。
ここからわかるのは、
連続であることと、微分できることは違う
ということである。
微分できるなら連続だが、連続なら微分できるとは限らない
ここはかなり大事である。
関数がある点で微分できるなら、その点で連続である。
つまり、
微分できるなら、グラフは少なくともつながっている
と考えてよい。
しかし、逆は成り立たない。
グラフがつながっていても、折れ目があれば微分できないことがある。
先ほどの \(f(x)=|x|\) がその例である。
連続と微分可能の関係
\[ \text{微分可能} \Rightarrow \text{連続} \] \[ \text{連続} \nRightarrow \text{微分可能} \]つまり、微分できるということは、単にグラフが切れていないというだけでなく、もう少し強い条件である。
グラフがつながっていて、さらに折れ目なくなめらかにつながっている。
それが、1回微分できるということのイメージである。
2回微分できると、曲がり方が見えてくる
では、2回微分できるとはどういうことか。
1回微分すると、傾きがわかる。
そして、2回微分すると、その傾きがどのように変化しているかがわかる。
つまり、2階導関数は、グラフの曲がり方と関係している。
1階微分と2階微分
\[ f'(x) \quad \text{は傾きを表す} \] \[ f''(x) \quad \text{は傾きの変化を表す} \]たとえば、\(f''(x)>0\) なら、傾きが増えている。
傾きが増えているということは、グラフは下に凸になっている。
逆に、\(f''(x)<0\) なら、傾きが減っている。
この場合、グラフは上に凸になっている。
高校数学で、2階導関数を使って凹凸や変曲点を調べるのは、このためである。
では、3回微分・4回微分は何を見ているのか
ここから少し抽象的になる。
1回微分は傾き。
2回微分は傾きの変化、つまり曲がり方。
では、3回微分や4回微分は何を見ているのだろうか。
これは、言葉で直感的に説明しようとすると、急に難しくなる。
3階導関数は、2階導関数の変化を見ている。
4階導関数は、さらにその変化を見ている。
つまり、回数が上がるほど、
変化の変化の変化……
を見ていくことになる。
ただ、それだけでは少しつかみにくい。
ここでは、次のように考えるとよい。
高階微分は、関数の形をより細かく読み取るための情報である。
1階微分だけでは、その点での傾きまでしかわからない。
2階微分まで見ると、曲がり方が少しわかる。
3階、4階、さらに高階の微分まで見ると、その点の近くで関数がどのようにふるまうかを、より細かく読み取れるようになる。
何回微分できるかは、なめらかさの段階である
ここで、「何回微分できるか」という話に戻る。
関数が1回微分できるなら、接線の傾きが決まる。
2回微分できるなら、傾きの変化まで見ることができる。
3回、4回と微分できるなら、さらに高い階の変化まで見ることができる。
つまり、何回微分できるかは、その関数がどれくらいなめらかなのかを表す一つの指標である。
なめらかさの段階
\[ C^1:1回微分でき、導関数が連続 \] \[ C^2:2回微分でき、2階導関数まで連続 \] \[ C^\infty:何回でも微分できる \]ここで出てくる \(C^1\), \(C^2\), \(C^\infty\) は、解析でよく使われる記号である。
厳密にいうと、「微分できる」だけでなく「導関数が連続である」ことも含めて \(C^1\) や \(C^2\) と呼ぶ。
ただ、まずは大まかに、
何階までなめらかに微分できるかを表す記号
と思っておけばよい。
多項式は何回でも微分できる
高校数学でよく出てくる多項式は、とても扱いやすい関数である。
たとえば、
多項式の例
\[ f(x)=x^4-3x^2+2x-1 \]のような関数は、何回でも微分できる。
何度か微分すると、やがて0になる。
多項式を微分していく
\[ f'(x)=4x^3-6x+2 \] \[ f''(x)=12x^2-6 \] \[ f'''(x)=24x \] \[ f^{(4)}(x)=24 \] \[ f^{(5)}(x)=0 \]このように、多項式は何回でも微分できる。
そして、途中で0になった後も、0を微分し続ければ0である。
したがって、多項式は \(C^\infty\) の関数である。
何回でも微分できる、非常になめらかな関数だと言える。
テーラー展開は、微分の情報で関数を近似する
ここで、テーラー展開の話につながる。
テーラー展開とは、ざっくり言えば、
ある点の近くで、関数を多項式で近似する方法
である。
ある点 \(x=a\) の近くで関数 \(f(x)\) を考えるとき、その点での値、1階微分、2階微分、3階微分……を使って、関数を多項式の形で近似する。
テーラー展開の形
\[ f(x) = f(a) +f'(a)(x-a) +\frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2 +\frac{f'''(a)}{3!}(x-a)^3 +\cdots \]この式を見ると、高階微分が何をしているのかが少し見えてくる。
\(f(a)\) は、その点での高さである。
\(f'(a)\) は、その点での傾きである。
\(f''(a)\) は、その点の近くでの曲がり方に関係する。
さらに高階の微分は、関数の形をより細かく補正していく。
つまり、何回も微分できるということは、関数の局所的な形をより細かく読み取るための材料を持っている、ということでもある。
マクローリン展開は、0のまわりのテーラー展開である
テーラー展開の中でも、特に \(a=0\) のまわりで展開するものを、マクローリン展開という。
マクローリン展開
\[ f(x) = f(0) +f'(0)x +\frac{f''(0)}{2!}x^2 +\frac{f'''(0)}{3!}x^3 +\cdots \]高校数学ではあまり本格的には扱わないが、大学以降の解析では非常に重要になる。
たとえば、 \(e^x\), \(\sin x\), \(\cos x\) などは、マクローリン展開によって多項式の無限和として表すことができる。
代表的なマクローリン展開
\[ e^x = 1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\cdots \] \[ \sin x = x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\cdots \] \[ \cos x = 1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\cdots \]ここまで来ると、微分は単に接線の傾きを求める道具ではなくなる。
関数を多項式で近似したり、関数そのものを別の形で表したりするための道具になる。
ただし、何回でも微分できることとテーラー展開できることは同じではない
ここで一つ、かなり大事な注意がある。
何回でも微分できるなら、いつでもテーラー展開で元の関数を完全に表せる。
そう思いたくなる。
しかし、厳密にはこれは正しくない。
何回でも微分できること、つまり \(C^\infty\) であることと、テーラー展開が元の関数に一致することは別である。
有名な例として、次のような関数がある。
何回でも微分できるが解析的ではない例
\[ f(x)= \begin{cases} e^{-1/x^2} & (x\neq 0)\\ 0 & (x=0) \end{cases} \]この関数は、\(x=0\) で何回でも微分できる。
しかも、\(x=0\) におけるすべての導関数が0になる。
そのため、0まわりのテーラー展開はすべて0になってしまう。
しかし、\(x\neq 0\) では \(e^{-1/x^2}\) は0ではない。
つまり、
何回でも微分できるのに、テーラー展開だけでは元の関数を復元できない
ということが起きる。
これは少し発展的な話である。
ただ、解析の世界では非常に重要な区別である。
何回でも微分できることと、テーラー展開で表せることは同じではない。
ここまで見えてくると、「微分できる回数」という言葉の奥に、かなり深い世界があることがわかる。
高校数学の微分から、解析の入口へ
高校数学では、微分は接線の傾きとして登場する。
そして、増減、極大・極小、凹凸を調べるために使う。
もちろん、それはとても大事である。
しかし、微分はそれだけではない。
1回微分できるか。
2回微分できるか。
何回でも微分できるか。
そうした問いは、関数のなめらかさを考える入口になる。
さらに、何階もの微分の情報を使うことで、関数を多項式で近似するテーラー展開へとつながっていく。
つまり、微分は単なる計算手段ではない。
関数の形を、少しずつ深く読むための道具
である。
まとめ
1回微分できるということは、その点で接線の傾きが1つに決まるということである。
2回微分できると、傾きの変化、つまりグラフの曲がり方が見えてくる。
3回、4回とさらに微分できるなら、関数の局所的な形をより細かく読み取ることができる。
何回微分できるかは、関数のなめらかさの段階を表している。
そして、その先にはテーラー展開やマクローリン展開がある。
ただし、何回でも微分できることと、テーラー展開で元の関数を完全に表せることは同じではない。
ここには、解析の深い世界がある。
高校数学では、微分は接線の傾きとして始まる。
しかし、その先には、関数のなめらかさを調べ、関数を多項式で近似し、関数の形をより深く読む世界が広がっている。
そう考えると、「何回微分できるか」という問いは、ただの計算問題ではない。
解析への入口に立つ問いなのである。