高校生のころ、グラフの平行移動で一度混乱したことがある。
たとえば、グラフを右に \(p\)、上に \(q\) だけ平行移動するとき、
\(x\) に \(x-p\) を代入する
\(y\) に \(y-q\) を代入する
と説明されることがある。
しかし、当時の僕はここで少し引っかかった。
\(x\) に \(x-p\) を代入するって、\(x=x-p\) ということではないのか。
それなら \(p=0\) になってしまうのではないか。
もちろん、実際にはそういう意味ではない。
ただ、この違和感はかなり自然だと思う。
「\(x\) に \(x-p\) を代入する」という言い方だけを聞くと、同じ \(x\) が同じものを指しているように見えてしまう。
今回は、グラフの平行移動でなぜ \(x-p\) や \(y-q\) が出てくるのかを、点の移動として考えてみたい。
平行移動は、式を動かす前に点を動かす操作である
まず大事なのは、平行移動を「式の操作」としてだけ見ないことである。
平行移動とは、本来、
図形上のすべての点を、同じ方向に同じ距離だけ動かす操作
である。
たとえば、グラフを右に \(p\)、上に \(q\) だけ動かすというのは、グラフ上のすべての点を右に \(p\)、上に \(q\) だけ動かすということである。
だから、まず考えるべきなのは、式そのものではなく、点の移動である。
元の点と移動後の点を分ける
ここで、元のグラフ上の点を \((X,Y)\) とする。
そして、それを右に \(p\)、上に \(q\) だけ平行移動した後の点を \((x,y)\) とする。
このように、元の点と移動後の点を別の文字で書くと、かなり見通しがよくなる。
元の点 \((X,Y)\) を右に \(p\)、上に \(q\) だけ動かすと、移動後の点は \((x,y)\) になる。
元の点と移動後の点
\[ x = X+p \] \[ y = Y+q \]これを逆に見ると、
移動後の点から元の点を見る
\[ X = x-p \] \[ Y = y-q \]ここで \(x-p\) や \(y-q\) が出てくる。
右に動かすのに、なぜ x−p なのか
ここが一番混乱しやすいところである。
右に \(p\) だけ動かすなら、感覚的には \(x+p\) と書きたくなる。
しかし、平行移動後の式を作るときに考えているのは、
元の点をこれからどこへ動かすか
ではない。
むしろ、
移動後の点 \((x,y)\) は、元のグラフ上のどの点が動いてきたものなのか
を逆向きに見ている。
右に \(p\) だけ動いた後の \(x\) 座標が \(x\) なら、元の \(x\) 座標は \(x-p\) である。
上に \(q\) だけ動いた後の \(y\) 座標が \(y\) なら、元の \(y\) 座標は \(y-q\) である。
だから、元の式の \(x,y\) に対応する場所には、
平行移動で置き換えるもの
\[ x \longrightarrow x-p \] \[ y \longrightarrow y-q \]が入る。
右に動かすのに \(x-p\) が出てくるのは、移動後の点から元の点を逆向きに見ているからである。
元のグラフの式に代入する
では、元のグラフが
\[ F(X,Y)=0 \]で表されているとする。
元のグラフ上の点 \((X,Y)\) は、この式を満たしている。
そして、移動後の点を \((x,y)\) とすると、
\[ X=x-p,\quad Y=y-q \]である。
したがって、移動後のグラフ上の点 \((x,y)\) が満たす式は、
平行移動後の式
\[ F(x-p,\ y-q)=0 \]となる。
これが、
\(x\) に \(x-p\) を代入する
\(y\) に \(y-q\) を代入する
という操作の正体である。
これは \(x=x-p\) と置いているわけではない。
元のグラフ上の点の座標を、移動後の点の座標で表し直しているのである。
X, Y は一時的なラベルである
ここでもう一つ、混乱しやすい点がある。
元の点を \((X,Y)\)、移動後の点を \((x,y)\) と置いたが、これは絶対にこの文字でなければならないわけではない。
逆に、
元の点を \((x,y)\)
移動後の点を \((X,Y)\)
と置いてもよい。
その場合は、計算の結果として \(X,Y\) の関係式が出てくる。
そして最後に、移動後のグラフの式は普通 \(x,y\) で書くので、\(X,Y\) を \(x,y\) と書き直すことになる。
これも数学的には問題ない。
なぜなら、\(X,Y\) は作業のために置いた一時的なラベルにすぎないからである。
なんなら、元の点を \((x',y')\) と置いてもよいし、\((a,b)\) と置いてもよい。
大事なのは、文字そのものではない。
どの文字が元の点を表し、どの文字が移動後の点を表しているのか
である。
ただし、最終的に移動後のグラフの式を \(x,y\) で書きたいなら、最初から移動後の点を \((x,y)\) と置いた方が混乱しにくい。
プログラミングの代入と少し似ている
ここで、少しだけプログラミングの話をしてみたい。
プログラミングでは、
\[ x = x + 1 \]のような書き方をすることがある。
数学の等式として読めば、これはおかしい。
しかし、プログラミングでは、これは
今の \(x\) の値に1を足したものを、新しい \(x\) として保存する
という意味である。
もちろん、数学の平行移動における代入と、プログラミングの代入は同じものではない。
ただ、
同じ \(x\) という文字が出てきても、すべてが同じタイミング・同じ役割の \(x\) を指しているわけではない
という点では似ている。
平行移動でも、元の点の座標と移動後の点の座標を区別しないと混乱する。
「\(x\) に \(x-p\) を代入する」という言い方で混乱するのは、同じ \(x\) が全部同じものを表しているように見えてしまうからである。
比例のグラフを平行移動すると一次関数になる
ここから、具体例を見てみる。
まず、比例の式
\[ y=ax \]を考える。
これを右に \(p\)、上に \(q\) だけ平行移動すると、
比例のグラフの平行移動
\[ y-q = a(x-p) \] \[ y = a(x-p)+q \] \[ y = ax-ap+q \]である。
これは、
\[ y=ax+b \]の形になっている。
つまり、一次関数は、比例のグラフを平行移動したものとして見ることができる。
この見方をすると、切片 \(b\) も単なる記号ではなく、比例のグラフがどのように移動した結果なのかとして見ることができる。
放物線も同じ考え方で動かせる
放物線でも同じである。
たとえば、
\[ y=x^2 \]を右に \(p\)、上に \(q\) だけ平行移動する。
このときは、
放物線の平行移動
\[ y-q=(x-p)^2 \] \[ y=(x-p)^2+q \]となる。
これは、頂点が \((p,q)\) にある放物線である。
ここでも、右に \(p\) だけ動かしたのに、式の中には \(x-p\) が出てくる。
その理由は同じである。
移動後の点 \((x,y)\) から見て、元の点は \((x-p,y-q)\) にあったからである。
円の方程式でも同じである
この考え方は、関数だけでなく、方程式にも使える。
たとえば、原点中心、半径 \(r\) の円
\[ x^2+y^2=r^2 \]を考える。
これを右に \(p\)、上に \(q\) だけ平行移動すると、
円の方程式の平行移動
\[ (x-p)^2+(y-q)^2=r^2 \]となる。
これは、中心が \((p,q)\)、半径 \(r\) の円である。
円の方程式でも、結局やっていることは同じである。
元の式の \(x,y\) に、それぞれ \(x-p,y-q\) を入れている。
分数関数・無理関数・三角関数も同じ
この考え方は、いろいろな関数にそのまま使える。
たとえば、分数関数
\[ y=\frac{1}{x} \]を右に \(p\)、上に \(q\) だけ動かすと、
分数関数の平行移動
\[ y-q=\frac{1}{x-p} \] \[ y=\frac{1}{x-p}+q \]となる。
無理関数
\[ y=\sqrt{x} \]なら、
無理関数の平行移動
\[ y-q=\sqrt{x-p} \] \[ y=\sqrt{x-p}+q \]となる。
三角関数
\[ y=\sin x \]なら、
三角関数の平行移動
\[ y-q=\sin(x-p) \] \[ y=\sin(x-p)+q \]となる。
式の種類が変わっても、基本は同じである。
右に \(p\)、上に \(q\) だけ平行移動するなら、\(x\) を \(x-p\)、\(y\) を \(y-q\) に置き換える。
ただし、それは \(x=x-p\) と置いているわけではない。
移動後の点から見て、元の点の座標を表しているのである。
まとめ
グラフの平行移動で、\(x\) に \(x-p\)、\(y\) に \(y-q\) を代入するという説明は、最初はかなり混乱しやすい。
特に、
\(x\) に \(x-p\) を代入するなら、\(x=x-p\) ではないのか
と考えてしまうのは、かなり自然である。
しかし、実際にはそうではない。
平行移動では、元の点と移動後の点を区別して考える。
元の点を \((X,Y)\)、移動後の点を \((x,y)\) とすれば、右に \(p\)、上に \(q\) の平行移動では、
\[ X=x-p,\quad Y=y-q \]となる。
だから、元の式の \(X,Y\) に対応する場所に、 \(x-p,y-q\) を入れる。
これが、平行移動で \(x-p,y-q\) が出てくる理由である。
右に動かすのに \(x-p\) が出てくるのは、移動後の点から元の点を逆向きに見ているからである。
この見方がわかると、比例、一次関数、放物線、円の方程式、分数関数、無理関数、三角関数まで、同じ考え方で平行移動を理解できる。